独り言  

【栗岩稔の店】

街が動き出し、人を迎え入れる準備をしているころ。そう、それは午前八時。
人が安息の地から戦いの地へと流れ入るその時。

都会の片隅に静かに佇む栗岩稔の店。
朝九時、すでに人を迎え入れる準備が整うその店内。
バーカウンターのような趣きながら、一見コンシェルジュカウンターのようにも見えるそこに、
男は始まりの朝を感じながら、穏やかに、静かに今日という日の始まりを待つ。

「おはようございます」
「おっ、おはよう。今日もよろしくな」
少し眠たげな疲れた面持ちで答える

「コーヒーで?朝食は摂られましたか?」
「あー、ほら、夕べさ、ここのサロンで割りと遅かっただろ。酒の量はいつもより少なかったけどな。
でも、何だか起きぬけは食欲無くてさ…。あのパンとスープ、ある?」
「もちろんですよ。少々お待ちください」

その男の前に整然と用意される、磨き上げられたカトラリーと純白のナフキン
少し間をおいて、毎朝焼かれる温かなパンと季節感あふれる温かなスープがそれに続く
「あー、身体が目を覚ますね。今日が始まるって感じだね」
穏やかに微笑みながら、静かに食し終わる。
何気なく片付けられた男の前に豊かな香りをたたえたコーヒーが物音ひとつなく差し出される

「やっぱり旨いねー。頭も働き出したぞ」
熱が冷め切らず湯気だけが残る空のコーヒーカップ

「よしっ、今日もいってくるよ。あっ、そうだ。今月末に公の夜会があるんだけどさ、
その相談に今晩サロンに寄るよ。そうだな、九時すぎちゃうかな。
なんとかって言うドレスコードやら葉巻やら何だか俺には難しくてさ。よろしく」
「かしこまりました。いってらっしゃい」

入れ替わりのようにいつもの席に着く美しい女性
「おはよ」
「おはようございます」
「今日はコーヒーだけにしようかな」
「かしこまりました」
「あー、そういえばあの小さな看板って何? 前から気にかかっていたのよね」
「あちらですか?あれはクラブの看板です」
「クラブ? それって会員制ってこと?」
「えー、そうです」
「ふーん、今度ゆっくり聞かせて。早く美味しいコーヒー飲みたいわ」
「少々お待ちを」

「ごちそうさま。時間ギリギリだったけれど、寄ってよかったわ。いってきます」
「いってらっしゃい」
「はーい、じゃあ後で」

たった四席しかないそれぞれの席に、それぞれのいつもの場所といつもの時間が流れる
それぞれの一日の始まりを見送った、ある日の朝十時

午前十一時
「こんにちは」
「あのー、ランチとかって無いんですか?あっ、こんにちは」
「申し訳ございませんが、こちらでは、ご用意しておりません」
「あー、そうですか。感じが良い店だったので、こちらで何か食べられればと思って」
「ありがとうございます。こちらで、ご用意しているのは自宅で朝食を食べそびれた人のための
美味しいパンとスープが五人分と、お昼にごはんをゆっくり食べられずに、
もうひとがんばりするために小腹が空いた人のための赤と緑のパスタだけですね」
「それは今、食べられないんですか?」
「午後三時からになりますね、申し訳ないのですが」
「そうですか…、じゃあ、また来てみます」
「お待ちいたしております。あっ、お昼ご飯ぐらいは、ゆっくり摂らないと午後戦えませんよ。
美味しいのは当たり前ですけど、プロの料理人が作るちゃんとしたご飯を食べてください」
「はい!いってきます。あとでコーヒーをいただきにきますね」
「いってらっしゃい」

午後十二時
静かに読書をする人
美味しいコーヒーと潮の香り一杯の小ぶりのクッキーで時の流れを楽しむ人
店内に流れる季節感あふれる音楽で休息する人

それぞれのつかの間の休息の時が終わる午後一時

午後三時
今となっては懐かしい黒電話のベルが鳴る
「はい、栗岩稔でございます」
「Kですが」途切れ途切れの携帯電話が続く
「クラブを利用したいのですが」
「申し訳ございませんが、ただ今、おひとりの男性がご利用中でして、
原則一組しか利用いただけないのですが」
「いえ、今ではなくて明日の夜なのですが」
「早合点ですね。失礼いたしました。明日は、午後九時からはご予約をいただいておりませんので、
そのお時間でしたらご利用いただけますが」
「あー、ちょうど良かった。明日商談から流れて接待のような会食があって…。
その後でゆっくり仕事抜きの男同士の話をしたいと思っていたんです」
「かしこまりました。会食のお食事内容はどのような感じですか?その方の酒の好みはどのような?
または、あまり飲まれないとか…。あとKさんはいろいろな音楽がお好きでしたよね。葉巻は?」
「そこまでしてくださるんですか?」
「当たり前のことでございます。一年ご利用の会費をお預かりしているのですから、
その方のための時間を演出する黒子が私の役目です」
「ありがとうございます。そういえばその際の飲食代はどのくらい用意すれば良いでしょうか?
すみません、入会して初めての利用で何もわかっていなくて」
「飲食代もすべて含んでおりますよ。Kさんがここで過ごされるすべての時間の対価ですから。」
「そうなんですね、ありがとうございます。じゃあ、他の利用は別料金ですよね。カウンターのほうとか。
すみません、質問ばかりで」
「いえいえ、朝から晩まで、いつもご自由にご利用いただけます。お一人同伴分も含んでおります」
「そうですか。朝九時から夜は何時まででしたっけ? あっ、また質問ですね。すみません」
「店の原則は今日という一日の終わり、深夜零時までですが、クラブはその限りではありませんよ。
私の説明不足で申し訳ございませんが事前にご連絡をいただければ対応させていただきます」
「ありがとうございます。それでは明日はすべてお任せいたしますので、よろしくお願いいたします。
あと、今度ひとりで行ったときに、葉巻のこととかJAZZのこととか話しを聞かせてくださいね」
「かしこまりました。ありがとうございます」

午後四時
「あー、お腹空いちゃったわ」
「またですか。だめですよ。朝だって食べてないんですよね。ちゃんと食べなきゃ、戦えませんよ」
「はい、はい。赤いパスタちょうだい。それとワイン、と言いたいところだけど、
これからまた人に会わなきゃいけないし…。何か美味しいドリンク作ってくれる?」
「はい、はい。少々お待ちください」
「そういえば、クラブの話だけど、一年分の会費の支払だったわね?」
「はい。でも、月々の会費という形でも承っておりますが、一括のほうがお得かと…。」
「ふーん、これから人と会う機会が増えるし、いろいろ相談出来るし。良い時間を作ってくれるしね。」
「まぁ、ご検討ください」
「そうね」
「あっ、でもここでの名刺交換は禁止ですよ」
「何故?」
「それは仕事中にして欲しいからです、もちろんビジネスユースしていただいて良いのですが…。
私の勝手な想いですが、肩書きを外して人対人で接してほしいんですよね、ここでは。
世の中に多いじゃないですか、名刺に話しかけてるような人って。何だか違うなって…」
「なるほど、あなたらしいわね。よし、やっぱり入会しよ。入会、でいいのかな?」
「決断が早いですね。そういう部分もあったり、自身を磨いているから、輝いて見えるんでしょうね。
はい、おまたせです」
「相変わらず、お上手ね。いただきまーす」

「あー、おいしかった。おいくら?」
「ちょうど1000円ですね」
「飲み物も作ってもらったのに?何だか良いわね、小銭が返ってこないのも。それも作戦?」
「まぁ、まぁ…。いってらっしゃい!」
「ごちそうさま、いってきます。って今日はもう来れないわ。また明日ね。とりあえず今日もありがと」
「こちらこそ、ありがとうございます」

午後十時
「わりぃ、わりぃ。遅くなっちゃったよ」
「お帰りなさい。おつかれさまでした」
「でさー、この会なんだけど。例の」
「あー、このドレスコードですか。あー、シガーもありますね」
「そうんだよ。俺ってほら苦手じゃん。そういうの」
「わかりました。服装については、まだ時間がありますから、来週ご自宅にお邪魔して
ワードローブを確認させてください。それを見て決めましょう。足りないものあったら私が手配しますよ」
「ホント?なんか買わせようとしてない?」

「いえいえ、お手伝いをするだけです。今あるものの中で揃えてみて、
足りないものというか、礼儀として必要なものは揃えておかないといけませんよね。
社会的立場を考えますと…」
「そうだな。よし、わかった。よろしくな」
「それでは、今日は葉巻をやってみますか?」
「そうだね」
「あっ、そういえば。靴磨きもしましょうね。時間のあるときにお預かりして手配しておきますよ」
「悪いね」
「いえいえ。お気になさらず」
「そういえば、旨いねこの水割り」
「それがホントの水割りですよ」
「そうか。バーテンダーだもんな。でもさ、お前何屋っていうのかね」
「何でしょうね。何屋でしょうかね…。栗岩稔ですかね」
「ふーん、お前が商品か…」
「言いすぎですね。失礼いたしました」
「でも、良いんじゃない。そこがまた。」

今日という一日が終わる 午前零時
静かにグラスを磨き上げるバーテンダー
静かにウツワを磨き上げるコンシェルジュ
静かにトビラを閉める「sowhat」

平成二十四年 穏やかな春の日に初夏を想い
栗岩稔

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【今改めてMARTINIについて】

バーテンダーの技量によって千差万別のカクテル「マティーニ」
元来、イタリアの酒類販売会社MARTINI社が
「MARTINI」というベルモットを売り出すキャンペーンのために考案されたカクテル「GIN&IT」
“IT”とはイタリアン・ベルモットのそれを表し
自社のスイート・ベルモットとジンをあわせたモノ
それこそが、「GIN&IT」という少し甘めのアペリティフ

それが、時の流れとともに
MARTINI社のベルモットを使わなくなり
「GIN&IT」というカクテルが一人歩きをし始め
スイート・ベルモットがドライ・ベルモットに変わり
マティーニという名のカクテルの王様と呼ばれるようになり
ドライ・マティーニ、エクストラ・ドライ・マティーニなどなど
数々の逸話とともに好みが分かれ…

ジンとベルモットのみというシンプルさゆえのそのレシピ
それゆえの技量を競うコンペティション
バーテンダーは、それで技量を試され…

そんなことより

作り手から飲む人へ伝える気持ちが一番です
おいしくて当たり前のモノを、よりおいしく飲んでいただくその心です

競う相手はバーテンダー、ではなく自分自身の向上心

飲む人それぞれに、それぞれのマティーニを

バーテンダーが作るは、その大切な時間

でも、うんちくを知っていても損はないかもしれませんね、酒場では

秋風吹く午後に再考
酒番 栗岩稔

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【X・Y・Zは、これで終わり、のカクテル】

「ホワイトラム、ホワイトキュラソー、レモンジュース」

レシピをつぶやきながら「これで終わりだ」とロシアンルーレットの引き金を引く松田優作が主演

映画「野獣死すべし」

アルファベットの最後の三文字だから、これで終わりというカクテル

今年、喜寿を迎える銀座の婦人

「私の枕元にはX・Y・Zね、よろしく」

明るく話すその言葉に頭を下げるバーテンダー

決してハードボイルドなんかではなく、酒は人生そのもの

人生最期の酒を決められるなんて、なんて幸せでしょうか

しかと約束しました「X・Y・Z」

最高に旨い「X・Y・Z」

最期の酒の約束に深い感謝をもちながら

自身の最期はさておき

今はみなさまの酒が大切です

今は決められません

自身の酒は、いつか、ひとりで考えます

路地裏に 酒と泪と 最期の酒
酒番 栗岩稔

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【満月を愛でるお話し会】

「月」 それは地球、身のまわりの自然、人体、人間の生活に大きな影響力をもっています。

フランスシャンパーニュ地方の発泡性ワインは、満月の夜に瓶詰め
ワインは満月の夜に抜栓すると最大限の旨さを発揮
満月の夜に仕込んだ禁酒法時代の酒「MOON SHINE」
儚き美しい月を例えたカクテル「BLUE MOON」
ヘンリー・マンシーニの名曲「MOON RIVER」
ジャズのスタンダード曲「BLUE MOON」
などなど酒にもまつわる事柄が多い月

barsowhatでは、月のメッセージを伝える 竹ノ下三恵さんをお迎えして
6月の満月の夜に「満月を愛でるお話し会」を開催いたします。
あなたの大切な質問に、竹ノ下三恵さんが月からメッセージを受け取り直接お伝えします。
大切な言葉を受け取りながら、満月の夜を楽しみませんか。

そいえば、満月の夜はすべて満ちたりていくら飲んでも酔わないとか。
ちなみに、新月、すべてがゼロになるので吸収が良いとか。
どちらが良いかしら…。

月夜にあなたに似合いの酒、創ります。
酒番 栗岩稔

追伸、雨でも開催します、もちろん。

「満月を愛でるお話し会」
開催日時:平成23年6月16日木曜日午後7時より午後9時まで
開催場所:銀座一丁目旧木挽町路地裏 bar sowhat にて
申込先:080-2240-3013 sowhat@kuriiwaminoru.com 栗岩稔まで
参加会費:5000円(唯一無比の旨い酒と月からの大切なメッセージ付)
参加人数:10名まで

竹ノ下三恵さんプロフィール http://padmehealing.com/profile.html

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2011.06.01 水.
pm 15:20
BAR SO-WHAT,独り言,酒場にて

【「いじわるオオカミ」という香り】

あれは10年前

「いじわる」な男だった時

突然、彼女は結婚しました

それを酒場で聞きました

好みの香りをやめました

一番好きな香り「いじわるオオカミ」を…

あれから10年後

女性たちに囲まれている時

突然、その香りだけ現れました

それを10年ぶりにまといました

やはり好みの香りでした

酒番 栗岩稔
路地裏で 香りの記憶 ききながら 遠くをながめ われ四十と気づく(字余り…) 

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2011.06.01 水.
pm 12:38
BAR SO-WHAT,独り言,酒場にて

【月を追いかけて】

幼少の頃 満月を追いかけた
幼少の頃 満月に話しかけた

子供から大人 月を忘れた

でも、キラキラ光るステージで「月」を唄った

「遠く遠く海へと下る 忍ぶ川のほとりを歩き 果ての街にたどり着く頃
空の色が悲しく見える 振り返る故郷(ばしょ)は遥か遠くなる…」

こんな唄いだしだった

四十の頃 改めて月に気づいた
四十の頃 月を愛でる夜が増えた

そして今 月の力を考える

もちろん、太陽も大好きです

満月の狼男は何処に
酒番 栗岩稔

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