8月   2011  

【最期のマチーニ】

先生にはじめてお会いしたのは、もう十年以上前の鎌倉でした

先生は、いつもきちんとした身だしなみでした
身体にあった服、季節感あふれる服、手入れの整った服、磨き上げられた靴
頭の先からつめの先まで、それはそれは、男として見習わなければならない姿でした

先生は、旅のことを教えてくださいました
長い長い取材旅行から帰りたくなったスペインのこと
その理由が女性の容姿が日本人女性に似ているからだとか
それはそれは、男として見習わなければならない話でした

先生は、酒場のことを教えてくださいました
カウンターの中心に自然に座っている姿が今でも目に浮かびます
酒場での会話、振る舞い、飲み方まで、それはそれは、男として見習わなければならない姿でした

先生は、酒のことを教えてくださいました
ウイスキーは、バランタイン十七年を氷小さめの水割りで
カクテルは、マティーニをストレートアップで
それはそれは、男として見習わなければならないこだわりでした

先生は、満九十歳で人生の最期を迎えられました

そのほんの少し前、人生最期のマティーニを作らせていただきました

先生は、男の美学をたくさん教えてくださいました
身だしなみのこと、振る舞いのこと、酒のこと、旅のこと、そして女性のこと
もちろん、スペインにも行ってみました

ひとつひとつ、男として、実行しています

ある夏の日、先生を追悼する大切な夜に鎌倉で「マチーニ」を作らせていただきました
とても光栄でした

「稔君、マチーニ、ね」
先生は、いつもそうおっしゃっていました

初秋に改めてマチーニを想いながら
酒番 栗岩稔

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【今改めてMARTINIについて】

バーテンダーの技量によって千差万別のカクテル「マティーニ」
元来、イタリアの酒類販売会社MARTINI社が
「MARTINI」というベルモットを売り出すキャンペーンのために考案されたカクテル「GIN&IT」
“IT”とはイタリアン・ベルモットのそれを表し
自社のスイート・ベルモットとジンをあわせたモノ
それこそが、「GIN&IT」という少し甘めのアペリティフ

それが、時の流れとともに
MARTINI社のベルモットを使わなくなり
「GIN&IT」というカクテルが一人歩きをし始め
スイート・ベルモットがドライ・ベルモットに変わり
マティーニという名のカクテルの王様と呼ばれるようになり
ドライ・マティーニ、エクストラ・ドライ・マティーニなどなど
数々の逸話とともに好みが分かれ…

ジンとベルモットのみというシンプルさゆえのそのレシピ
それゆえの技量を競うコンペティション
バーテンダーは、それで技量を試され…

そんなことより

作り手から飲む人へ伝える気持ちが一番です
おいしくて当たり前のモノを、よりおいしく飲んでいただくその心です

競う相手はバーテンダー、ではなく自分自身の向上心

飲む人それぞれに、それぞれのマティーニを

バーテンダーが作るは、その大切な時間

でも、うんちくを知っていても損はないかもしれませんね、酒場では

秋風吹く午後に再考
酒番 栗岩稔

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